天の川

天の川を眺めた*1

泊まりがけのセミナーの最終日。皆が入り終え、人がいなくなった時間を見計らって貸し切り状態の露天風呂に入った。独り、鼻歌を歌いながら夜空を見上げると視力の悪い目にも白鳥座らしい星座が見えた。うっすらと雲のような帯もあって、もしかすると天の川かもしれないなと思い、風呂から上がり眼鏡をかけて外に出た。

一面に瞬く星々。そして、天の川が天球のほぼ中央を南から北まで流れていた。
目が慣れてくると暗い星も見えるようになり、天の川もはっきりとしてくる。無数の星々と広大な天の川に吸い込まれそうになる。しばらくその浮遊感を楽しんだ。

ロビーにいた後輩のFを呼ぶと、一年前の同じセミナーで見たときよりすごい、と感動していた。1分に一つくらい流れ星が空を走る。ロビーを通り掛かったKさんとHさんにも声をかけた。こんなに素晴らしい星空なのだからセミナーに参加している皆に見せてあげたい、それに皆、星や星屑の研究者なのだ、そう思っているとKさんが、ちょっと皆を呼んで来よう、と旅館に入っていった。

しばらくするとわらわらと大勢が騒がしくやってきた。空を見上げて、お、系外惑星だ、だの、プレソーラーグレインだ、だのとしょうもない冗談を叫んでいた。でも皆、空を埋め尽くす星々と天の川に感動しているようだった。

皆に見せてあげたいと思った星空なのに、こうして皆がやってきてそれを眺め大騒ぎしているのを見ると、大切なものを取られてしまったような、ちょっと汚されてしまったような、そんな悲しい気持ちに少しだけなってしまうのはどうしてだろう…。

*1:この物語は全て虚構です。