春の日の、思い出

ジンパだった。本当に楽しかった。こんな日曜日はいつ以来だろう*1

最初は光田さん、村田さん、杉山夫妻で始めた。肉を焼き始め、しばらくして倉本さんが到着してちょっと良いビールを飲み、ちょっと良い肉を食べた。大人のジンパだ、と光田さんが言った。雲ひとつない晴天で、柔らかく風がそよぎ、木々の合間から差し込む日差しがとても気持ち良かった。

ひとしきり食べ終えた頃、たなかつさんが合流。改めて乾杯し、わいわいとやった。酔いも適度に回り気分良くなったからか、木に登ろうということになって、ぼくはテニスコートのフェンスに近い木に登ってしまった。倉本さんにはチンパンジーだかオランウータンだかだと言われてしまう。倉本さんはとても嬉しそうに、携帯電話で写真を撮っていた。降りる段になって、登ったときに使ったフェンスに足が届かないことに気づいて、困った。結局、倉本さんと杉山さんの肩に足をかけて降りることになった。ちょっとだけ怖かった。

それから、杉山さんも登りたいと言い始めた。肋軟骨の骨折もまだ完治してないようなのに無茶をする人だ。でも、ぼくが登ったのを見てどうしても登りたくなってしまったらしい。ぼくと同じ方法で登る。そして、案の定、降りるときに困っていた。でも、杉山さんは体がぼくよりも大きいので、ちょっと体勢を整えてフェンスに取り付くことができ、無事に降りられた。満足げだった。

今日はそんなにお酒は飲まないだろうと、村田さんと話していたのだけれど、実際には皆、かなりの量を飲んだ。最初に買っていったビールだけでなく、倉本さんが差し入れてくれた余市シングルモルトも飲み干して、途中で日本酒まで追加してしまうほどだった。ぼくもかなり飲み過ぎた。これは飲み過ぎだなと自覚した時には既に遅い。横になってうんうん唸ったり、皆の言動に対するぼくの珍奇な発言に皆笑っていた。たなかつさんは「真性の M だな!」などと言って、倒れているぼくの口に焼きたてのアスパラを放り込んだ。頬に垂れたアスパラを熱がるぼくのリアクションに誰もが大笑いしていた。それから、具合の悪さに呻いているぼくをバックにして、皆満面の笑みで写真を撮っているらしかった。とても楽しそうだった。杉山さんの奥さんだけは、かわいそう、と言ってくれた。

いい加減苦しんでいるぼくを光田さんは、背中をさすって介抱してくれた。とてもありがたかった。

陽も大分傾き、気温も下がってきて、ジンパはお開きとなった。村田さんも東京へ帰る時間が迫り、荷物を持って別れを告げた。背負ったそのリュックはチャック全開だった。そして皆、後片付けを始めた。具合の悪さの峠は越えたが、未だ少し弱々しいぼくは免責された。ごめんなさい。

研究サロンに戻って七輪を仕舞い、余りものを片付けた。その後、倉本さんは望遠鏡を用意し、杉山さん達と屋上へ行った。水星を見るためだ。昼間、お酒を飲みながら、今日は水星を見たいんだ、と言っていた。光田さんは、サロンで炊いて 3 合まるまる余ったご飯を小分けにしてラップに包んでいた。ラップを切る度に皺になってそれを開いているのをぼくは、不器用なんだよ、などと言いながらテーブルに突っ伏し、横で見ていた。

倉本さんが、水星見えた見えた!と言ってサロンへ戻ってきた。ぼくらも屋上へ登った。元天文同好会の杉山さんが、さすが、上手く望遠鏡の視界に水星を捉えていた。薄明の空。肉眼では全く見えない。望遠鏡を覗くときれいに半分と少し欠けた水星が見えた。球であることがはっきりわかった。ぼくは思わず、おお、すごい!と声を上げた。もう、酔いはすっかり醒め、元気を取り戻していた。水星の斜め上に見えている金星は、眩しいくらいに輝いていた。


涼しいを通り越して寒いくらいの屋上で、 6 人は、しばらく春の夜空を眺めた。

*1:この物語はフィクションです。登場人物も全て架空のものです。