『進化しすぎた脳』 池谷裕二 著 (★★★★★)

脳科学はずっと以前から興味があってね。
脳科学者である著者が高校生にした講義をまとめた形の本。非常に読みやすく、かつ、おもしろい。予備知識なしでも十分読める。
最新の研究結果も盛り込みながら、初歩的な脳科学の知識の全体像を把握でき、とても興味深く読めた。
最終章の院生との議論のところで、ちょっと違和感のある(方手落ちな?)話が出ているのが気になった。 1000 億のニューロンと 1000 兆のシナプスで構成され、入出力によって絶えず状態が変化する脳は再現性がないので、例えある瞬間のネットワークの様子が完全に把握できたとしても、理解することはできないだろう、そもそも、科学の俎上に載せることができていない。という主張をしているが、それはどうかと。
それを言ったら、 1000 億どころでない原子・分子からなる物質の振る舞いは理解できないということになるが、熱力学とか統計力学という学問によって立派にその振る舞いを理解することができる。同様に、脳の振る舞いの統計的な再現性から、神経細胞の1つ1つを全て追わなくても、総体的に脳の機能を理解し、その振る舞いを予言できる理論を作る(科学する)ことは可能であろう。
長年脳科学をやり、大きな成果も挙げている著者であるから、そんなことはわかっているのであろうが、そういう記述はないので不公平かなと思ったり。